それは、朝の1本の電話から始まった。
使い終わった食器を洗い終え、さぁ次は掃除機でもかけようかな、と思っていた時に固定電話の着信音が鳴った。
電話のディスプレイを見てみたら、慧君の名前と携帯番号が表示されていた。
「はい、もしもし。どうしたの? 慧君」
『あ、あゆ? 俺だけど、ちょっとそこら辺……机の上か、靴棚の上に、茶色の封筒が無いかみてくんねぇ?』
「うん、ちょっと待っててね?」
保留にしてから、私はパタパタとスリッパの音を立てながら玄関へと向かう。
「あ、あった」
靴棚の上を見てみれば、そこには慧君が言っていた茶封筒が置かれていた。
こんな所に茶封筒があるとは気付かなかったと思いながら、それを持って電話の所へ戻る。
「もしもし、慧君? うん、あったよ」
『うわぁ……マジかよ』
慧君は参ったなと電話越しで呟きながら、悪いんだけどさ、と続けた。
『それ、会社にまで持って来てくんない?』
「今から?」
『あぁ、出来れば直ぐにでも』
どうやら、これから会議で使う大事な書類が入っているらしい。
私は分かったと言ってから電話を切り、言われた茶封筒とお財布と家の鍵を持ってから、家を急いで出たのであった。
「えっと、この会社で……いいのよね?」
都内の一等地に建てられている高層ビルを、少し大きめな茶封筒を持ちながら見上げていた。
自分の夫が勤めている会社を初めて見たが……こんな大きな所に勤めていたのかとビックリした。
顔を元に戻して正面を見れば、スーツを来たサラリーマンの方や綺麗なOLの方達がそこから出たり入ったりしている。
頬に落ちてきた髪の毛を耳に掛け直し、私は意を決してビルの中へと入って行った。
『慧君、着いたよ。ロビーの待合の所にいるから』
広いロビーの中で、クッション性抜群の椅子が置かれた所で腰を下ろす。
そこからメールを慧君に送ると、直ぐに『今から下に行くから待ってて』と返ってきた。
パタリと携帯を折り畳んでバックの中に仕舞う。
やることも無いので、キョロキョロと辺りを見渡していたら───後ろから声を掛けられた。
驚いて振り向いたら、そこには綺麗な女性が佇んでいた。
「あの、椅子の後ろに鍵が落ちていたんですが……貴女のではありませんでしたか?」
「あっ! はい、私のです」
女性の掌に乗っているピンクのブタさんが付いている家の鍵を見て、私は慌てて立ち上がってその人に頭を下げた。
「す、すみません。携帯をバックの中から取り出した時に一緒に落ちたんだと思います」
ありがとうございます、と頭をもう一度下げてから鍵を受け取る。
女性は「いえ、お気になさらず」と言って立ち去ろうとしたのだが、私が持っている茶封筒を目に止めると立ち止まった。
「……あの、つかぬ事をお伺い致しますが、その封筒は……」
「あ、はい。夫が仕事で使うモノだったんですが、忘れてしまったので届けて欲しい言われたんです」
私がそう言ったら、目の前にいる女性が一瞬息を呑んだ。
しかし、女性が私の名前を聞いてきた事でその事に意識を向けることは無かった。
「私はこの会社に勤める冬堂慧の妻で、冬堂歩と申します」
いつも夫がお世話になっております、と述べた瞬間。
目の前にいる女性の笑顔が……歪んだように見えた。
「そう、ですか。冬堂君の、奥様でしたか……」
瞬きをする一瞬の間に、女性の表情は元に戻った。
「あの……夫とお知り合いですか?」
「ふふ、申し遅れました。私は、冬堂君と同じ課で働いている───」
女性は一旦息を吸い込んでから、にっこり笑った。
「藤咲茉帆(ふじさきまほ)と申します」
一瞬にして、あの時の慧君の寝言を思い出した。
『うぅ〜ん……ま、ほ……』
後ろから抱き付きながら、幸せそうな表情でそう言った慧君が頭の中で思い浮かぶ。
喉がカラカラになって、手先が氷みたいに冷たくなっていた。
目の前にいる女性───茉帆さんを見詰めながら、両手で持っていた封筒を無意識に握ってしまう。
そんな私を見て、茉帆さんの笑顔は増々深くなる。
「私、冬堂君には、いつもお世話になっ───」
「あれ? そこにいるのって歩さん?」
茉帆さんの言葉を遮って、私に声を掛けてきた人物がいた。
その人物を見て、私は泣きたくなるぐらいホッとした。
「古嶋君……」
「よう、藤咲。お前、こんな所で何してんの?」
「何って、冬堂君の奥様にお会いしたから、挨拶をしていただけよ」
「ふーん。あ、それより、部長がお前の事を探してたけど?」
「あら、そうなの?」
茉帆さんは「一体何の用なのかしらね?」と肩を竦めてから、それじゃあ私はこれで、と言って挨拶をしてからその場から立ち去ったのであった。
それから程なくして、慧君が私達の前に現れた。
「……何でお前が歩と一緒にいるんだよ」
「偶然、ここで合ったからだよ」
エレベーターから降りてきた慧君が、私と一緒にいる古嶋さんを見て直ぐに、ムスッとした顔でそう言った。
私はそんな2人を見ながらも、何も言えないでいた。
茉帆さんの、あの勝ち誇ったかの様な顔が眼の奥に焼き付いて離れない。
その光景を頭の中から振り払うように顔を振ってから、深呼吸をして息を整える。
「あの、慧君……これ、忘れていったの持って来たよ?」
「あ……? あぁ、ワリィな、こんな所まで来させて」
「うぅん、いいの」
持っていた封筒を慧君に渡すと、慧君に真っ直ぐ帰るのかと聞かれたので、「うん、お家の中のお仕事まだ途中だったから」と言って、慧君と古嶋さんにお仕事頑張ってねと声を掛けてその場を去った。
ビルから離れた所にあるバス停にまで歩いている途中、私は茉帆さんの事を思い出していた。
胸下まである長い髪を明る過ぎない色に染めていて、顔を見れば、化粧も濃すぎずかと言って薄くもない、ナチュラルなものであった。
服装も、白のブラウスに黒のジャケットとスカートを着ているのに地味には見えず、いかにもデキル女に見えたし、何よりも、モデルの様に手足も長くて細かった。
…………同じ女に見えない。
立ち止まり、建物のガラスに映った自分の姿を見て唇を噛む。
艶もなく、パサついた髪。化粧っけもなく、唇につけているのはリップクリームだけ。
服装も、セール時期に買った安物のシャツとズボンで……見るからに、『疲れきった主婦』の姿をしていた。
ガラスに映った自分の姿を暫く見詰めていた私は、そこから視線を離し───とある場所へと足を向けた。
「ただいまぁー」
「お帰りなさーい」
家で夕食の準備をしていたら、慧君が帰って来た。
私はコンロの火を一旦消してから、玄関へと慧君を迎えに行く。
「お帰りなさい、慧君」
「おぅ、ただいま。今日は悪かったな、わざわざ会社にまでこさせちま───」
玄関で靴を脱ぐのに屈んでいた慧君が、靴を脱いでスリッパを履いて顔を上げた瞬間、ポカンと口を開けて固まってしまった。
その表情を見た私は、心の中で「ヨッシャー!」と雄叫びを上げながらガッツポーズをしていたが、実際には首をちょっと傾げて「どうしたの?」と聞いていた。
「いや……あゆ、お前急にどうしたんだ……それは」
「うふふ、気分転換にちょっと髪を切ってきたの」
そう、私は慧君の会社を出てから、真っ直ぐ美容室に行っていたのだった。
お店で1番高いトリートメントをして下さい! 髪型は……スタイリストさんにお任せします! あ、でも、私に似合う髪型でお願いしますね。それと、私でも美人に見れるようなメイクをお願いします! お金はいくらかかってもいいので!!
と、お財布を握り締めながら言った私に、担当したスタイリストさんは若干引いていた様に見えたが、そこはプロである。私の想像以上の出来栄えで、私は(服装以外の外見だけは)生まれ変わったのであった。
伸びっぱなしの肩より少し長かった髪を10センチ程切って、トリートメントをした髪は今や艶々に輝き、それでいて手触りは柔らかだ。それを、仕上げにコテで緩く巻いてもらってふんわりとした感じになっていた。
そして、仕上げに可愛らしい感じになるようなメイクをしてもらい、ルンルン気分で帰宅した私は家に帰ってから、普段は着ないお出かけ用の服を着て慧君のご飯を作って待っていたのであった。
そんなビフォー・アフターな私を見ていた慧君に、ワンピースの裾をちょっと摘みながら「……どうかなぁ?」と聞いてみたら、
「……イイと思う」
と言いながら、まだポカンとした表情で私を見ていた。
目元を薄く赤く染めた慧君に気分を良くした私は、これからの事を思って心踊らせていたのであった。
夕食も食べ終え、ソファーで二人揃ってテレビを見ている頃には慧君も私の姿に見慣れたのか、寛いでテレビを見ていた。
そんな慧君の腕に、私は胸を押し付けるようにしながら腕を絡ませた。
「ねぇ、慧君」
「……ん〜?」
「お風呂なんだけど」
「んー」
「一緒に入ろ?」
「マジで!?」
急に振り向いて大きな声を上げる慧君に、逆にビックリした。
目をぱちくりさせながら、コクンと頷くと……慧君は「お、おぉ。じゃあ俺、風呂洗ってくるわ」と、ちょっとそわそわとした感じでお風呂場に歩いていった。
それから程なくして、私達は一緒にお風呂に入ることとなった。
ここからまた、夫の躰を躾ける時間が始まった───。
お風呂場に先に私が入り、体を洗い終えてから慧君が入って来る。
慧君が入って来た方へと振り向けば……慧君の目が、私の背中から腰、お尻、脚へと順番に降りていき、また少し上に上がって隠れている胸の所を熱を持った視線で見詰めていた。
こくり……と動く喉仏。
それを見ながら、私は体を隠さないで立ち上がる。
ここで恥ずかしがってはイケない。いかに相手に余裕を持って接することが出来るかが大切なのだ。
「さ、慧君ここに座って。私が体を洗ってあげる」
つったっている慧君の腕を取り、私が今まで座っていた椅子に座らせてから、桶に汲んだお湯を慧君の体にかけ、ボディーソープを垂らして泡立てたスポンジで体を洗っていく。
首から背中全体を洗い、前に回って腕から鎖骨、胸、お腹、腰にタオルを巻いている部分を抜かした脚を順番に洗う。
その際、私はタオルも何も身に着けていなかった。
慧君の視線が、胸と足の間の茂みを行ったり来たりしているのが何となく分かり、顔……というより体から火が出るほど恥ずかしかったけど我慢した。
一度身体の泡を落とすのに、慧君の身体にお湯をかけて泡を流した。
それから、もう一度スポンジにボディーソープを垂らして泡を立て───まだ洗っていない部分、腰に巻いているタオルをゆっくりと外した。
ちょっとだけ立ち上がり掛けているが、まだまだふにゃんとした『慧君』が目に飛び込んできた。
この状態の『慧君』を可愛いと思えるのが不思議だな、と思っていたら、慧君が脚を横に開いた。
「………………」
「…………あゆ」
そーっと顔を上げると、目元を潤ませ、期待に目を輝かせる慧君がいた。
私はその期待に答えるべく、スポンジを更にゴシゴシと擦って泡立たせると、その泡を両手に掬う。
泡がなくなったスポンジを床に置いてから、私はその泡で包み込むようにして『慧君』を両手で掴んだ。
「……んっ……はぁ……っ」
気持ち良さそうな溜息が頭上から聞こえる。
床に敷いていたマットの上にぺたんと座り込み、真正面にある『慧君』をやわやわと擦る。
右手で亀頭全体を包み込むようにして揉み、それから親指で尿道付近を擦りつける。
左手では竿を支えるようにしながら、竿全体を上下に摩った。
「はぁ、はぁ、はぁ……くぅっ」
だんだん、慧君の息が荒くなってきて、手の中の『慧君』がむくむくと大きくなってきた。
慧君の先走りで流れる泡。次第に、お風呂場の中でにちゃっにちゃっと卑猥な音がするようになった。
胸を大きく上下させ、荒い息を履き続ける慧君が、私の頭にそっと手を置いた。
「あ、ゆ……ヤバイ、もう……!」
どうやら限界らしい。
それは、慧君の顔や声、ビクビクと震える『慧君』自身からも分かった。
私はにっこりと笑ってから慧君の唇にキスをする。
それに被さるようにして、慧君がまるで食い尽くすかのようなキスをして来た。
「はぅ……んっ、んん……んむぅ……」
「はっ、はっ……あゆ、あゆむ……ああ゛ぁっ!」
扱いていた手を早めると、唇を離した慧君が私の肩口に顔を押し付け、迫り来る快感に耐えていた。
はっ、はっ、と早い呼吸音と共に手の中の『慧君』がビクビクと大きくなる。
「気持ちいい?」
「ぁ……もう、ダメ……っく、いく……う゛ぁ、あぁぁあぁ───ひぃっ!?」
射精をする、と言うタイミングで、私は『慧君』の根元をぎっちりと握りしめ、体外に出ようとする白濁液を強制的にせき止めたのであった。
目に涙をためて口をぱくぱくさせる慧君を見ながら、私は握っていない方の手で亀頭を優しく撫でたり、その下にある袋をコロコロと揉んだ。
「う゛ぁぁ!? や、め……くる……し」
「慧君? 私との約束……忘れたのかな?」
「な、にを───うあ゛ぁっ!」
グイッと、『慧君』を握っていた手を自分の方へ引っ張ったら、慧君が座っていた椅子から腰を浮かして私の方へと一歩近づいた。
「うぅぅ……っ、や、めぇ……いった……」
敏感になっている急所を握られ、無理やり引っ張られているのだ。それは痛いだろう。
しかし、私は握っている手を離さずに屈んだ状態になっている慧君の後ろへと周り、椅子を退ける。そして、慧君に四つん這いになるように指示を出した。
プルプルと震える脚と手で何とか四つん這いになった慧君に、私は少しだけ握っている手の力を抜いた。
「慧君、イク時はなんて言いながらイクのかな?」
「……あゆ、の、名前を呼びながら」
「うん、そうだね。次はちゃんと出きるかな?」
ガクガクと首を縦に振る慧君に私はフッと笑う。
慧君の見ていない所で、隠していた桶の中から薄いゴム手袋とジェルを取り出した。
片手にゴム手袋を嵌めてから指にジェルを垂らす。
「気持良くなりたかったら……私の言うことをちゃんときかなきゃダメよ?」
射精感が治まってきた『慧君』の根元から手を離し、亀頭だけに緩い刺激を与える。
亀頭全体を刺激しながら人差し指で尿道口をぐりぐりと弄ると、恍惚とした表情で啼き声を出す。
あまりの気持ち良さに腕の力が抜けたのか、慧君は肘をついて顔をマットへとくっつけた。
「あ、あぁぅ……も、ダメ、だし……たい……くぅぅっ!」
目をぎゅっと瞑り、胸を大きく動かしながら荒い呼吸をする慧君の表情を見ながら、亀頭を刺激し続けていた手をそっと根元付近へと持ち変える。
そして。
「はぁ、っはぁ……ぁ、ぁっ? ───ん゛あ゛ぁぁあ゛ぁっ!?」
高い位置にあるお尻の窄まりに狙いを定めた中指を───根元まで押し込めた。